ここでは、単一マシンに構築した ArcGIS Enterprise 基本構成を、webgisdr を使用して新しいマシンに移行する手順をご紹介します。
障害復旧における環境切り替えのイメージ
本ドキュメントで想定している環境の具体的な構成情報は以下のとおりです。
移行元 | 移行先 | |
---|---|---|
プライベート DNS | server1.domain.com | server2.domain.com |
パブリック DNS* | public.domain.com | public.domain.com |
プライベート IP アドレス | 10.0.0.1 | 10.0.0.2 |
パブリック IP アドレス** | 192.168.0.1 | 192.168.0.2 |
* 移行前は移行元環境へ、移行後は移行先環境へ同じパブリック DNS でアクセスできるよう設定します。
** 具体的な値を用いた説明のため、プライベート アドレス範囲の IP アドレスを記載しています。
移行元 | 移行先 | |
---|---|---|
Web Adaptor (Server) 名 | server | server |
Web Adaptor (Portal) 名 | portal | portal |
Server サービス URL | https://public.domain.com/server | https://public.domain.com/server |
Portal パブリック URL | https://public.domain.com/portal | https://public.domain.com/portal |
Server 管理 URL | https://server1.domain.com:6443/arcgis | https://server2.domain.com:6443/arcgis |
Portal 管理 URL | https://server1.domain.com:7443/arcgis | https://server2.domain.com:7443/arcgis |
Server WebContextURL | https://public.domain.com/server | https://public.domain.com/server |
Portal WebContextURL | https://public.domain.com/portal | https://public.domain.com/portal |
移行元 | 移行先 | |
---|---|---|
Server インストール ディレクトリ | C:\ArcGIS\Server | C:\ArcGIS\Server |
Server 構成ストア | C:\arcgisserver\config-store | C:\arcgisserver\config-store |
Server サーバー ディレクトリ | C:\arcgisserver\directories | C:\arcgisserver\directories |
Portal インストール ディレクトリ | C:\ArcGIS\Portal | C:\ArcGIS\Portal |
Portal コンテンツ ディレクトリ | C:\arcgisportal\content | C:\arcgisportal\content |
Data Store インストール ディレクトリ | C:\ArcGIS\DataStore | C:\ArcGIS\DataStore |
Data Store コンテンツ ディレクトリ | C:\arcgisdatastore | C:\arcgisdatastore |
webgisdr で移行可能な情報 (各ソフトウェア コンポーネントの設定、2D/3D コンテンツ)
マップ イメージ レイヤーやタイル レイヤー (キャッシュ タイル)
※ クラウド データベースにエンタープライズ ジオデータベースを構築しており、接続情報は webgisdr で移行されますが、DB 内のデータは移行されません
バックアップ情報 | |
---|---|
バックアップ方法 | 完全バックアップ |
バックアップ先ストレージ タイプ | ファイル システム |
バックアップ先ストレージ | \\server\backup |
一時バックアップ先ストレージ | C:\backuptemp |
ここで紹介する移行手順の概要を記載します。 移行元環境として、1台のマシン上に ArcGIS Enterprise 基本構成が構築されていることを前提としています。
移行先環境として、移行元環境と同様の環境を用意します。 その際、移行先環境では、移行元環境と異なる FQDN を使用し、ユーザーがアクセスする Portal パブリック URL と Server サービス URL に移行元環境と同じものを使用する必要があります。そのため、移行先環境で hosts ファイルを使用してこれらの URL に使用される パブリック DNS が移行先環境に名前解決されるよう設定した上で、ArcGIS Enterprise をインストール・構成する必要があります。 webgisdr を使用する際に同一にすべき設定の詳細については、ヘルプ「ArcGIS Enterprise のバックアップ」をご参照ください。
移行元環境でバックアップを実行します。
作成したバックアップを移行先環境にリストアし、設定やコンテンツを確認します。
最後に、本手順では触れませんが、移行元環境へのトラフィックを移行先環境へ向け、ユーザーが移行先環境へアクセスできるようにします。
移行元環境は、2. 環境情報 の各種パラメータが使用され、1台のマシン上に ArcGIS Enterprise がインストール・構成されています。
移行先環境に ArcGIS Enterprise をインストール・構成する前に、FQDN に “server2.domain.com” を設定し、hosts ファイル (※) に移行元環境のパブリック DNS を自身の IP アドレスに解決できるよう設定します。
※ hosts ファイルは Windows では C:\Windows\System32\drivers\etc\hosts として、Linux では /etc/hosts として格納されています。
具体的には、hosts ファイルに以下のように設定します。
192.168.0.2 public.domain.com
上記の設定が完了したら、移行元環境と同様、2. 環境情報 の各種パラメータを使用し、移行先環境に ArcGIS Enterprise をインストール・構成します。 その際、Server サービス URL および Portal パブリック URL に移行元環境にも使用しているパブリック DNS を使用します。 ArcGIS Enterprise の具体的な構成手順については、ArcGIS Enterprise 基本構成セットアップ ガイド をご参照ください。
ArcGIS Enterprise 10.8 以降、デフォルトではタイル キャッシュ データ ストアのバックアップ場所は登録されなくなりました。 webgisdr などを使用してタイル キャッシュ データ ストアのバックアップを実行するには、事前にバックアップ場所を登録する必要があります。 バックアップ場所を登録するには、以下のように configurebackuplocation を実行します。続行確認で “yes” を入力します。
cd C:\ArcGIS\DataStore\tools
configurebackuplocation --operation register --store tilecache --location C:\backuptilecache
必要に応じて、ArcGIS Enterprise デプロイメントを読み取り専用 モードにします。 これは、ArcGIS Enterprise 10.8 以降のオプションです。 バックアップを実行した後にユーザーにサイトに加えられた変更 (コンテンツの作成、変更、削除など) は移行後の環境に反映されません。 読み取り専用モードにすることで、それ以降ユーザーやポータル管理者はサイトに変更を加えることができなくなるため、一貫したバックアップ・リストアを実行することができます。
以下の URL にアクセスし、デフォルトのポータル管理者ユーザーでサインインします。
https://public.domain.com/portal/portaladmin
[Mode] > [Update] の順にクリックします。
[Read Only] を [True] に設定します。 必要に応じて、カスタム メッセージを入力し、ユーザーがコンテンツを作成、変更、または削除しようとした場合に表示するメッセージを変更できます。
移行元環境の <Portal for ArcGIS インストール ディレクトリ>\webgisdr ディレクトリに格納されている webgisdr.properties のコピーを C:\propfiles に mywebgis.properties として作成し、以下のように修正・保存します。 なお、webgisdr の実行により PORTAL_ADMIN_PASSWORD の値は暗号化され、PORTAL_ADMIN_PASSWORD_ENCRYPTED の値は true に変更されます。
PORTAL_ADMIN_URL = https://server1.domain.com:7443/arcgis # ポータルの管理ディレクトリの URL
PORTAL_ADMIN_USERNAME = portaladmin # ポータル管理者のユーザー名
PORTAL_ADMIN_PASSWORD = password123 # ポータル管理者のパスワード
PORTAL_ADMIN_PASSWORD_ENCRYPTED = false # webgisdr の実行によりポータル管理者のパスワードが暗号化されていない場合:false
BACKUP_RESTORE_MODE = full # 完全バックアップ:full
SHARED_LOCATION = C:\\backuptemp # バックアップ ファイルの場所
INCLUDE_SCENE_TILE_CACHES = true # ホスト シーン レイヤーを含める場合:true
BACKUP_STORE_PROVIDER = FileSystem # バックアップ ファイルの保存先タイプ
BACKUP_LOCATION = \\\\server\\backup # バックアップ ファイルの場所 (ファイル システム)
コマンド プロンプトを開き、以下のように webgisdr が格納されたディレクトリへ移動し、webgisdr エクスポート オプションを実行します。
cd C:\ArcGIS\Portal\tools\webgisdr
webgisdr --export --file C:\propfiles\mywebgis.properties
ここでは、マップ イメージ レイヤーおよびホスト タイル レイヤーのキャッシュ タイルが格納されているすべてのディレクトリ C:\arcgisserver\directories\arcgiscache のコピーを手動でバックアップします。
以下のように configurebackuplocation を実行し、バックアップ場所を登録します。続行確認で “yes” を入力します。
cd C:\ArcGIS\DataStore\tools
configurebackuplocation --operation register --store tilecache --location C:\backuptilecache
バックアップに使用したプロパティ ファイルのコピーを作成し、必要箇所を修正・保存します。ここでは、C:\propfiles に mywebgis.properties として作成し、以下のように修正します。なお、バックアップ場所や一時バックアップ場所など他のパラメータについても、プロパティ ファイルの内容と実態が合うよう、必要に応じてディレクトリの作成やパラメータの変更を行います。
PORTAL_ADMIN_URL = https://server2.domain.com:7443/arcgis
コマンド プロンプトを開き、以下のように webgisdr が格納されたディレクトリへ移動し、webgisdr インポート オプションを実行します。
cd C:\ArcGIS\Portal\tools\webgisdr
webgisdr --import --file C:\propfiles\mywebgis.properties
これにより、最新のバックアップ ファイルがリストアされます。
3.4.5. webgisdr の移行対象外のコンテンツのバックアップ取得 でコピーした arcgiscache ディレクトリを移行元環境のディレクトリ構造と同じ配置になるよう手動で配置します。 ArcGIS Server サービスを実行するアカウントがディレクトリへの書き込み権限を持っていることを確認します。
移行先環境にて、Portal パブリック URL を使用して ArcGIS Enterprise ポータルにサイン インし、リストアしたコンテンツにアクセスできることを確認します。
移行元環境でのバックアップ時に ArcGIS Enterprise デプロイメントを読み取り専用モードにした場合は、読み取り専用モードを無効化します。
以下の URL にアクセスし、デフォルトのポータル管理者ユーザーでサインインします。
https://public.domain.com/portal/portaladmin
[Mode] > [Update] の順にクリックします。
[Read Only] を [False] に設定します。
移行先環境に正常にリストアされていることが確認できたら、ユーザーが移行元環境へのアクセスに使用していたものと同じ URL で移行先環境にアクセスできるように設定します。
ここでは、単一マシンに構築した ArcGIS Enterprise 基本構成を、webgisdr を使用して新しいマシンに移行する手順をご紹介しました。 移行元環境と移行先環境を異なるリージョンに構築するなどして、データ損失やダウンタイムを極力抑えた災害復旧を実現することができます。 災害復旧にかかる必要な時間やリソースを把握するためにも、テストを実施しその結果を踏まえて、組織のデプロイメントの災害復旧計画にお役立てください。
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